714人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
山下が、
「あと1回しかチャンスが無いからな、このままでは、空母の下敷きになって沈没する」
中谷が、
「スパキャビ砲発射準備、完了」
中谷がヘルメットをかぶり操舵席についた。
山下が、
「機関起動、全速後退!」
ジェトポンプが唸りを上げ逆噴射した。それでも流星号は空母の艦体にめりこみ抜けない、空母の鋼鈑がギーときしんだがまったく動かない。
「スパキャビ砲、撃て!」
山下が目をむいて怒鳴る。
中谷がスパキャビ砲を連射した、その反動と振動で艦がギギギ…と金属の擦れ合う嫌な音を出しながら、少しずつ抜けている。
中谷は弾を撃ち尽くすまで連射した。艦はグググ…と少しづつ後退している。ガク…ガク…ガックンと勢いよく、すっぽり抜けた。中谷も撃つのをやめた。
空母は空気と油を吐きながら傾いたままゆっくりと沈んでゆく。
大画面には、空母の沈没の渦に巻き込まれて沈んでゆく人間が映し出されている。海面にも足をバタバタさせながら無数の人間が漂っている。この海域は戦艦大和が玉砕した海域のすぐ近くである。水温も春とはいえ低い、生き残る者は、過去と同じように殆どいないだろう。
さらに追い打ちを掛けるように、画面には大型の鮫が群れをなして、バタバタと海面を鳴らしている方に遠くから密かに近寄っている。
野村が言っていたようにソナーで人の心が山下には見えていた。画面に映し出されている映像はCGで作られているはずだが、それぞれの顔も違うし叫ぶ声さえも聞こえる。その者の魂、家で待っている家族の泣き叫ぶ顔までもが見えてくる。
山下は自分が攻撃して死んでゆく者を見ながら手を合わせ静かに画面を海底へ切り替えた。
野村と中谷も山下にならい手を合わせている。
最初のコメントを投稿しよう!