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「このまま、無音で海底まで潜航する。後は救助を待つ」
山下は涙が出ない、涙が出ればそれで死んでゆく者につぐなえるかもしれない、それさえも戦争と言うものは許してくれないのだ。
中国艦隊は旗艦の空母が撃沈され戦意喪失したのか全く反撃が無いし、溺れる者を助けようともしない。いや、違う、得たいのしれない魔物に恐れおののき逃げ去ったのだ。
三人は、作戦が成功したが喜ぶ事などできない、海に充満している死者の魂をどう静めるのか、すべは無い、ただ目を閉じるだけだ。
両国併せて、千人以上の犠牲者をだしたのだ。もうこれで終わりにしてほしいと願った。
流星号は、海底まで潜航し砂地に横たわっていた。
主電池を使い果たし、非常用照明の赤ランプがぽつんと点いているだけで、酸素と圧縮空気が無くなるまで沈んでいた。
「これで、中国軍が撤退してくれればいいのだが……」
山下はつぶやいた。
「そうです。戦いは嫌です。戦わないために自衛隊があるのに……」
野村が応えた。
山下が静かに、
「戦後六十数余年、自衛隊発足以来、戦闘が始めて行われ、始めて千人以上の命が犠牲になった。私は潜水艦に乗りたい一心で自衛隊に入った。戦争なんか起きるはずがないと高をくくっていたら、戦争が突然やってきてこの結果だ。自衛隊にいるのも潮時かもしれないな、もう二度と潜水艦に乗りたくない」
「艦長が辞めたら、私らどうすればいいのですか?野村二尉、何か言ってください」
中谷が甲高い声で言った。
「私も辞めたい」
「そんな!」
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