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『今日の午後の天気は晴れ。雲も少なく、夜には綺麗な星空が見えることでしょう。…変わって明日のお天気です……』
まだ暑さの残る秋の昼下がり……。
ラジオを聴きながら、いつ舗装されたのかわからない山道を初老の男は軽トラックに乗って走っていた。
男が向かっているのは、自分が所有する山だ。
「こうも暑いと、いっそのこと雨でも降ってくれたほうが嬉しいねぇ。そぉすりゃ理由付けて帰れるんだがなぁ……」
男は名字を白石、名を弦二郎という。
数年前に定年を迎え、ずっと勤めてきた会社を退職していた。
それ以降、暇となった時間を利用し、親の代から所有していた、ほったらかしの山を手入れすることにしたのだ。
だが、二年前に一人息子を病で亡くしてからは、山の手入れに嫌気がさしてきていた。
二人で手入れすることもあったのだが、一人となった今では山の半分も手入れ出来ていない。
「やっぱり売ってしまうか……」
弦二郎は近頃そんな事ばかり考えている。
この山は弦二郎にとって唯一の財産だったが、息子がいない今となっては、年金暮らしのお荷物でしかない。
「……売ろう。……帰って、あいつとしっかり話すとするか」
弦二郎はそう思い立つと、自分の山まで、もう目と鼻の先という所まできてUターンしはじめた。
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