十五年前

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 車をさっき来た道へと向けなおし、弦二郎は一旦車を止めた。 まだ決めかねているのだろう……。  弦二郎は自分の山を眺めようとサイドブレーキを引き、ドアを開ける。 すると、湿った生暖かい空気が入り込む。 不思議に思った弦二郎が空を見上げると、今まで晴れ渡っていた空が、どんよりとした雲に覆われていた。 「ありゃぁ…天気もわしの味方らしい」 自分の願いが叶ったことに喜びつつも、当てにならない予報に弦二郎は少し腹が立った。  梅雨にも似た纏わりつく湿気の中、弦二郎は自分の山を眺める。 まるで、自分の山の上から雲が広がっているように見えることに不思議に思いつつも、雨が降ってこないうちに帰ろうと車へ向かう。  その時、急に晴れたかのように周りが明るくなり、背後からの明かりに弦二郎の足下から自分の影が伸びた。 雷にも似たその明るさは、雷のそれよりも長く地面を照らし続けている。  不思議に思って振り返ると、弦二郎は驚いた。 どんよりと空を覆っていた黒い雲の隙間から、一筋の太い光の柱が伸びている。 それは一直線に弦二郎の山に向かって伸びていた。 「なんじゃあ、ありゃあ……」  驚きの余り、口の開いたままの弦二郎をよそに、その光の柱は次第に細くなり、最後には雲に吸い込まれるようにして消えてなくなった。  呆然と空を見上げたままの弦二郎だったが、ハッと我にかえり、急いで車に乗り込むと、もう一度車の向きを変えて走り出す。 自分の山へ向けて……。  
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