【第一章】一幕「初秋」

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イントロから引きつけられる軽快なテンポのサウンド……。 頭の中にいつもの曲が流れてくる。 (あぁ、あいつからか……) どうすればいいのか判ってる。だが、体が動かない。 俺の動かないで渋る身体に鞭を入れるかのようなロックサウンドが流れ続ける。 それはサビへと進み、一気に盛り上がりをみせる。 ようやく元気づけられたように、そのサウンドが流れる携帯に手をのばしてボタンを押す。 「んん…ふぁい」 反応的に携帯を耳にあて、数時間使用していない喉から声を出す。 『あ、おはよ悠君。ちゃんと起きたかなぁ?』 携帯からは聞き慣れた声が聞こえてくる。 「あぁ、起きた。…じゃ、そゆことでおやすみ……」 『え、えぇ~!寝ちゃ駄目だよ。悠君、この前もそう言ってほんとに寝ちゃうんだもん。私冗談かと思ったのに……』 「砂耶、そのやりとりすら忘れてかけ直してこないほうもおかしいと思うぞ……」 たまらず突っ込んでしまった。 この間、さっきのように言って寝たら、「あ、うんおやすみ~♪」と、砂耶は俺の冗談を冗談で返してきた。 だが、そのまま自分の冗談を忘れたらしく、普通に起こしたと思い込んでかけてこなかったのだ。 まぁ、本当に寝てしまった俺も俺だが……。  俺は毎朝、この砂耶に目覚まし時計のかわりに携帯を鳴してもらっている。 目覚まし時計がない訳じゃない。 ちゃんと時計もあるし、携帯にもアラーム設定をしてある。 ただ、アラームに気付けないのだ。 だからこうして起きなかった時のために最終手段として砂耶にかけてもらっている。 もちろん俺の好きな曲でだ。 最近はそれすら効果が薄れてきているような気がする。 次を考えなくては……。
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