【第一章】一幕「初秋」

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「あー良かったぁ。……また取りに戻るなんて嫌だよ~」 ……はぁ、なんかタイミングを測ったように遮られてしまった。 まぁ、また思い出した時にでも聞いてみるとしよう。  駅までの距離はそう遠くはない。 現に、もう駅だ。 改札を抜け、ホームまで行くと学生でごった返している。 この真夏のような暑さの中で密集地には正直、居たくない……。 「おっはよう、お二人さん!今日は特に暑いねぇ。はっ!これも異常気象のせいなのか!?まさか!冬に雪が降らないなんて事あるんじゃないかぁ!?」  これまた暑苦しいのが来た。 周りの暑さにこいつの暑苦しさが重なって倍の暑さに感じられる。 「もしそうなったらスノボ出来ないじゃないかぁ!今年こそ始めようと思ってるのによぉ……。悠、どうしたらいい!?」 「俺に聞くな高木っ。…あと暑いんだよ引っ付くな!」 俺は覆いすがる高木を押し退け、汗で張り付くシャツを身体から剥す。 「おはよー、高木君。今日もテンション高いねぇ」 「おはよう砂耶ちゃーん。暑いっしょぉ、仰いであげよう!」 そういって高木は下敷きを取り出し、ぶんぶん仰ぎだす。 このテンション、一日中続くから恐ろしい……。  高木は俺のクラスメイトだ。 入学時に席が隣同士になっていたのが運のつき。 あいつの尋常ならぬハイテンションの餌食となった。 そして、必然的に登校で一緒になる砂耶も高木のハイテンションの餌食になったのは、いうまでもない……。  汗だくで笑顔のまま仰ぎ続ける高木に恐怖を覚え、砂耶が絶えきれなくなった頃、電車は来た。
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