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それを聞いて、私は理解した。
おにいちゃんは、私が好きなのだ。肉親としてでなく。
どうしよう。
困ってしまう。今まで一度も、そんなことを考えたことはなかった。
おにいちゃんはおにいちゃんだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
きっと、私とおにいちゃんの間にある気持ちのずれは、このベランダとあのベランダの間のすきまのようなものだと思う。
別に、たいした差ではない。でも、まちがいなく、ふたつの間にはうめられないみぞがあるのだ。
私はなにも言わないで、部屋にとってかえした。
窓をしめてクレセント錠をかけて、カーテンをひいた。ついでに、とびつくようにして、部屋のドアのかぎもかけた。
どうしよう。
こわい。
ふとんをかぶって、いろいろなことを考えた。
おにいちゃんのことや、好きだった彼のことだ。
どうして恋は、思うとおりにならないんだろう。
おにいちゃんは、私が好きで。
私は、彼が好きで。
彼は、別の女のひとが好きで。
とても不毛だ。むくわれるのは彼だけだから。私もおにいちゃんも、別のひとを想う相手を想っている。
私とおにいちゃんが他人で、おにいちゃんのことを私が好きになれたら、どんなにかしあわせなことだろう。
でもそれは、むりなのだ。
私とおにいちゃんは、もう兄妹にうまれついてしまっている。
私はもう、彼を好きになってしまっている。
次の日、私は学校をさぼった。
セーラー服を着て、おにいちゃんと顔をあわせないですむように、朝はやく家をでた。そして、学校ではないところへ行った。
行った先は、町中のアーケード街。
まだどの店もあいていなくて、そこはひっそりとしていた。シャッターのおりた店はあさびしげだった。
こんなにはやい時間には、さすがにストリートミュージシャンも演奏していない。今から演奏をはじめようとしているらしい、ギターやハモニカを用意しようとしているひとたちはたくさんいた。
目的もなくあるいていると、もう演奏をはじめているひとを見つけた。
そのひとは、こざっぱりとした格好をしていた。ストリートミュージシャンより、どこかの高校の生徒会長をしているほうがにあいそうだ。
そのひとが歌っているのは、哀しいうただった。
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