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ふたりが見ている前で、ついに悠は集団に捕まってしまい、はがいじめにされた。屋上フェンスのギリギリでもみ合いになっている。
晴天の空に、にわかに黒々とした重い雲が立ちこめていき、大粒の雨が落ちてきた。
「おい、これってまさか…」
クロと茜は頷き合った。
覚醒の兆し…?
窮地に追い込まれたために、眠っていた能力を開花させるのかもしれない。ふたりは固唾を飲んで事の成り行きを見守った。
フェンスにもたれていた集団のひとりが、濡れた地面に足を滑らせのけ反った。弾みで悠を掴んでいた腕が跳ね上がり、その反動で反対側を掴んでいた男子も腕を放してしまった。バランスを崩した悠の身体は、フェンスの向こうへ投げ出される。
「ヤバっ!!」
慌てて走りだしたクロは、一瞬間に合わず、悠に手が届かなかった。
「くそ!」
クロがフェンスから身を乗り出して、悠の姿を目で追った。真っすぐ落ちていく悠。地上まで、あとわずか!
こんなことなら素直を助けていればよかった。そうすれば、イジメは続くとしても命を落とすことはなかったはず…
悔しさに顔を歪めるクロの肩に乗っていた茜が歓声をあげた。悠を追っていた集団も恐る恐る下を覗く。
横殴りの雨の中、地上を見下ろしたクロが目にしたものは、龍のごとく伸びる渦巻く水に抱えられ、穏やかに眠っている悠の姿だった。
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