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   ――もう、四月の上旬だと言うのに。  半ば開いた窓から、桃色した花びらの数枚が、舞い込んできたのです。  とても風流なできごとにわたしは感心をしました。  それに、今日は太陽が燦燦とあたたかく、正直、この部室のロケーションは素晴らしいと改めて痛感しました。  目前の窓の風景には、学校のグラウンド脇に植えられた、年季の入って太いシダレザクラが一本、正面にあります。  これはもう、部室としては相当な勝ち組でしょう。全校生徒は演劇部の前にひれ伏すと良いのです。  さて。  一番先に部室へ到着したわたしが、窓際までパイプ椅子を寄せて、何するわけでもなく、強いて言えば日向ぼっこをしていた今は、昼休みのことでした。  続いて現れたのは、副部長のシーモさんです。  本名は下村さんです。最初はシモさんだったんですが、マタアイマショウが流行歌になったせいか現在はシーモさんと呼ばれています。  それはともかく、眼鏡顔でいつも不機嫌そうなシーモさんは、学校購買部直送である菓子パンを片手に入室後、 「おい。窓、閉めて。埃が入る」  いきなり言われちゃいました。  せっかくの情緒に酔いしれていたんですが、顔からしてニヒリズム全開であるシーモさんに言われると抗うこともできません。わたしは後輩ですし。大人しく窓を閉めます。  そのままシーモさんは部室中央に置かれた長机と組む、パイプ椅子の一つに座ると、わたしという可愛い後輩へのスキンシップも忘れて菓子パンを食べ始めました。こっちを見向きもしません。たまに、この人は生きてて楽しいのかなと思います。  わたしが若干の居心地の悪さを感じていたところ、   「ひゃっほーい」    バタンとドアが開き、後続者はすぐに現れました。  今の第一声でおわかりのように、シーモさんとは違い、社交性の極みに在るような人物です。  我らがボス、演劇部の部長でした。  片手に弁当箱を持ってます。そして残る方の手を軽々しく上げて、 「おお、シーモにコーギー。今日は初めましてだね。こんちゃ」  部長は入り口から、長机、シーモさんの隣の位置まで弁当箱を滑らします。それから部長専用のロッカーに向かいました。  ちなみに、コーギーとはわたしのことです。身長が低いことが由来だそうです。脚の長さは平均的だと自己認識してるので、あしからず。
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