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「いぇーい、シーモ。聞いて聞いて」
まるで、本日のお天道様が霞むほどバイタリティに溢れる笑顔が部長の持ち味で、去年の学園祭ではミスコンに選ばれたのも納得の事実です。
うらやましくなるほど細い腰でタクトを刻みつつ、副部長へと歩み寄っていきました。
シーモさんはメロンパンをくわえながら、相変わらず不機嫌そうな地顔で応対しています。
「なに?」
「ずばり、次は『イルカも溺れる』に決めたの。期待してろよ~、うりうり」
部長はニヤニヤと、座るシーモさんの後ろへ回りこんで、彼の肩甲骨付近を肘でグリグリやり始めました。
あ、良いな。
実を言うとわたしも少し肩が凝ってるんで、シーモさんの次にお願いできませんか?
「良いよ、やったげる。胸もおっきくしてあげるね」
それは結構です。余計なお世話です。
ところで、『イルカも溺れる』とは、案の定、次回の脚本タイトルのことでしょうか。間違いないですね。
いまだ部長から整体を受けているシーモさんが、まるで呆れたような調子で口を開きました。
「お前、また脚本を題名から考える気かよ?」
部長は満面の笑顔で頷いてますが、背を向けたシーモさんからは見えないことでしょう。
「溺れる魚って映画あるじゃん。堤幸彦の」
ああ、観てないけど知ってます。
「あーゆうバカバナシの内容にしては、ちょっとタイトルが撞着的で格好付けてる感じよね。魚は溺れませんから。でもね、イルカだったら普通に溺れるでしょ。肺呼吸だし。魚より可愛いくて良い。狙ってる感がしないしね」
魚でもマグロとかは……いえ、なんでも。
ここでシーモさんが、こんなことを言います。
「ストイックなのは良いけど、相変わらずセンスの流用だな」
今さらそれを部長に言ってもしかたありません。
前回の劇タイは『ロミオはジュリエット!?』だったし、その前は『後藤を待ちながら』でしたもん。シェークスピアとベケットが涙目になってます。
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