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   昼休みも残り30分になった頃、4人目の部員がやってきました。  またもや三年生。通称“パシリ先輩”の御到着です。  今日も彼の、デイリーケアであるツイストパーマは絶好調の模様。それが体調へも還元されるのか、いつも通り張りのある声を上げ、さっそく言うのです。 「コーギー! コーヒー牛乳、買って来いやぁ!」    はい、かしこまりました行ってきます。  パシリ先輩は、別に本人がパシられてるわけでもなく、何かと目下の者に飲食物を買ってこさせる習性に由来してのネーミングなんです。当然ですが、お金はちゃんと出してくれますし、ゆとりのある時は後輩の分も出してくれます。てゆーか、彼、後輩という存在が大好きで仕方ないみたいです。偉そうにしてるのは愛情の裏返しだと、周囲にバレバレな可愛い先輩なんです。  だから、わたしも面倒ですが比較的に快くパシられてあげます。今は他の新2年生がいませんしね。いえ、他の子が居る時でも、わたしが指名率トップですけど何故か。  バビュンと購買に行って、バビュンとコーヒー牛乳を買って参りました。  小さいから速いんです。  演劇部「最小最速」とは、わたしのことです。  部室へ蜻蛉帰りを果たすと、部長が爆笑しながらパシリ先輩の肩を叩いていました。楽しそうですね。   「あっはっは、パシリィ! アンタやっぱ馬鹿だよ馬鹿!」  どうしたんですか?  聞くと、パシリ先輩も笑いながら、 「いや、森田がな」  部長のことです。 「タイトルが『イルカも溺れる』ってゆーからよ、俺としては、まず登場人物の誰かを真剣に溺れさせるんだ。けっこうヤバそうで深刻なシーンな? そこでだ、」  はいはい。  それで?  わたしが続きを促すと、部長が堪え切れない様子で吹き出して、長机に突っ伏しました。   「ひぃーっ駄目! そんなとこで“なごり雪”とか! くだらな過ぎてツボっちゃった、助けてぇっ」  引きつったように笑い続けます。  ああ、確かに。想像すると笑えるかも。  溺れてる人となごり雪。  なんかその溺れてるキャラクター、確実に助からない気がします。  シーモさんも無表情のまま頷いて、 「イルカ繋がりってのは下らないけど、シーンとBGMのギャップが酷いから、面白い要素はあるかもな」
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