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パシリ先輩は景気を良くした笑顔でピアスを弄ってます。
「だべ? 状況と真逆ってのがミソよ。曲調もバブル演劇的な雰囲気で良い感じじゃんか。なごり雪使おうぜ」
あの時代はBGMに歌謡曲が多くてミスマッチが良い意味でチープでした。
「そうそう、その通りだコーギー。お、コーヒー牛乳サンキュ! よし、俺の膝に乗っても良いぜ」
嫌です。死んじゃえ。
「いっそ」と、シーモ先輩の発言「チープついでに、タイトル通り、実際のイルカの話にするか?」
笑い過ぎて涙目になっていた部長がようやく顔を上げて、
「ああ、擬人的な演劇? そういう方向でも良いけど。――あ、じゃあ鮫島くんとか出す? ……ぶ、ぶはははははっ!」
完全に笑いの沸点を超えて、自分の発言のハードルすら低くなってるようです。
わたしも別に擬人演劇はありかと思います。『CATS』とか、私的には名作ですから。
思えばそこが、演劇の良い所の一つでもあります。エンターテイメント上、演劇は、映画などに比べて物語空間の構築が圧倒的に不利とされるジャンルですけど、それでかえって、観客はそのことを前提に作品を鑑賞することになりますから。演劇においては描写的リアリズムの排斥が、武器となっても足枷になることはないのです。
だから、如何なるシュールな舞台設定であれど比較的滑らかに容認され、たとえば人間が猫やイルカを演じても観劇する皆さんは誰も違和感を持たないわけです。
演劇は基本的に役者が人間だけですからね。
結論を言えば擬人化された物語でも大丈夫。むしろ、面白いかもしれません。
やっとこさ笑いが鎮化した部長は満足そうな笑顔で、豊かな胸を張り出しました。
「よーしよし。笑った笑った。副交感神経の優勢化だよ。私のモチベーションも上がったことだし、みんな楽しみにしとけよぉ」
まあ、全ては部長次第なんですが。彼女、部員から散々アイディアを引っ張り出したあと、実際にはまったく別物のシナリオを作ってきたりしますから。
完全な専制君主。悪帝ではないことが幸いです。
でも、と、わたしは思うんです。
劇の新作を談義するよりも、今の時期、他にするべきことがあるのではないでしょうか?
一昨日が、入学式だったのですから。
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