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啓が、大変おかしい。2週間前からだろうか。
味噌汁に醤油かけようとしたり、緑茶に砂糖入れようとしたり、元々天然だったが通常以上にベタなボケをしてみたり。
窓を見ては、ため息。
携帯を見ては、泣き出しそうな表情で。
「うざいわ」
あまりのうざったさに一言。
今は、次のコンクールの練習中。
ここは、ピアノもあり、防音効果のある大学の練習室内。ここの学生なら、予約すれば自由に使用できる。他にいくつも練習室があり、ここはその一つだ。
今は冬だが、春はここから桜が見え、密かに気に入っている。外は綺麗な青空が広がっていた。
しかし、こうも情感たっぷりに辛気臭い演奏ばかりしていたら、気が滅入る。
さすがに我慢も限界だ。自分が鬱になりそうだ。
「なにが?」
幽霊のように覇気のない表情。虚ろな瞳。
2週間前とは全く別人だ。
「何がて、お前以外ここにはおらへんやろ。どないしたん。言うてみ」
柄じゃない、と思いつつ、聞いてみた。
「無理」
一言で返された。
「即答かい。せめてもう少し考えてから返事しいや。それとも、おれには話せへんか」
啓は困った表情をしていた。
「ごめん」
謝るんなら、説明ぐらいしろ。
「もう、ええ」
苛立ってきたおれは、練習室を出ていった。乱暴に扉を閉める。
行き先は、もちろん…
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