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ある日、いつものように駅で待ち合わせると話しかけた時と同じぐらい勇気を出して言いました。迷惑かもしれないと、断られるかもしれないと怯えながら。
「あの、啓さんってバイオリン弾けるんですよね。今度何か弾いてくれませんか」
でも啓さんは屈託のない笑顔で、
「いいよ、何弾こうか」
と快く了承してくれました。
それから会う度に、啓さんは僕の為にバイオリンを弾いてくれました。
いつも啓さんがバイオリンを弾くたび、僕は目を閉じ音に集中します。全ての感覚を音に向けて…。
不思議な、時間でした。
全てが満たされた夢のようで。
僕に向かってくる音に、啓さんの音楽を独り占めしたような気分になりました。
会った日は、とてつもなく幸せで。
時はあっという間で、2ヶ月が過ぎていました。
毎日楽しくて、仕方がなかったです。初めてだったかもしれません。こんなにも幸せだったのは。
そう、あの日までは。
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