126人が本棚に入れています
本棚に追加
たまたま授業が早く終わり帰ろうと思ったら、
「イチ君、まどかとデートしようよ」
長いツインテールの女の子に声をかけらました。彼女は神津 まどか。同じクラスのクラスメートです。いつもなら同じクラスの双子三木兄弟に適当にあしらってもらうのですが、彼らはあいにく掃除当番で戻るには時間がかかりそうなので、僕はさっさと無視して帰ることにしました。
「嫌です。帰るので」
「じゃあ、一緒に帰ろうよ」
毎度彼女は全くめげません。この根気はいったいどこから来るのでしょうか。
初めて会った時、痴漢から助けたら『王子様』とか言われて正直度肝を抜かれました。今時王子様なんて真顔で言う人がいたことと、自分が呼ばれたことの両方に驚きましたね。
以来ずっとこの調子で、助けるんじゃなかったと思う程に僕につきまとっています。嫌いではないけど正直結構うざったいです。
帰り道、啓さんと出会った公園が目に入りなんとなくベンチに腰掛けました。
「やっとまどかとデートしてくれる気になったの?」
「いいえ、まったく。ここで啓さんに会ったんですよ」
神津さんが隣でなんか文句を言っていたけど、気になりませんでした。
初めて会ったこの場所で、僕は啓さんを思い出していました。初めて会った時の泣き出しそうな表情。
ドジをしたときのばつの悪そうな表情。
音楽を語るときの子供みたいにきらきらした表情。
音楽に向き合うときの真剣な表情。
くるくると変わる啓さんの表情を思い出すだけで、胸が満たされる。僕は幸せな気持ちになるのです。
とても自然に、啓さんに会いたいなぁと思いました。
最初のコメントを投稿しよう!