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「それで……――」
――ズキッ――
頭が痛む……妙なことが起きて混乱してるというのか、それとも崖に落ちる前に殴られた名残とでもいうのか。
鈍い痛みが後頭部あたりで踊っている。
「リディア、すまない……頭が痛むんだ、少し休ませて貰えないか? 話は、また後で聞かせてくれ……」
「あぁ悪い、そだよな? ぶっ倒れてた病人に長話はダメだよな。じゃあ俺は隣の部屋にいるから、何かあったら呼んでくれ!」
「ありがとう」
――パタン――
リディアがでていった後は、少し何も考えず外の景色を眺めていた。
何年ぶりだろう、こんな落ち着いた時間は。
この家はログハウスのような作りで、極寒の環境にも馴染めるように造られていた。
部屋には、ベッドと机とイス、壁に暖炉とこの世界の地図だろう物が張ってあり、窓辺に花瓶に入った一輪の花がいけてある……それだけの質素な部屋だ。
おそらく誰かの部屋だったのだろう。
だがそんな殺風景な部屋でさえ、俺が疲れを癒すにはもったいない位だった。
窓の外を舞う雪は、その軽い身を風に委ね、軽やかに踊る。
この世界で変わった物は人の生きる形だけで、景色は変わらなかったのだろう。
外はとても穏やかだ……
――ズキッ――
「あたた……」
後頭部から発せられる痛みは治まらず、なおも俺の体を蝕んでいるようだ。
これは本当に一度休んだ方が回復が早いだろうと考え、俺は首を暖かな木で出来た部屋の天井へ向け、瞳を閉じた……
運命という物があるなら、俺はきっと抗えない流れの中に身を投じたのだろう。
それが俺に与えられた時間で役割ならば、なんでもいい、手がかりがほしい……
崖から落ちた時に死ぬはずだった俺が、生き延びてこうしている理由……
俺でなければダメだった理由……
それはいつか知ることが出来るのだろうか。
眠りの精に誘われて意識が離れていく中、そんなことを考えていた。
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