宝塚記念

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『終章』 家が、 嫌いだった。 母は、 物心ついた時から、 いなかった。 父は、 僕が寝る頃になっても 帰ってこなかった。 だから学校が、 好きだった。 友達が、 沢山いたから。 クラスでは、 ちょっとした人気者だった。 子供ながらに、 誰かを笑わせる事が、 好きだった。 あの日も、 そうだった。 絶妙な、 タイミングと思った。 40人が、 静まり返った瞬間。 『アンカーは西尾しかいないだろ』 一言で、 クラス全体が賑わった。 なんせ西尾は、 義足だったから。 ギャップは、 結構笑えるもの。 ただそれだけで、 良かったのに。 担任が取った多数決で、 僕の友達全員が、 手を挙げた。 本当にそうなるなんて、 思ってもみなかった。 リレーが始まった。 僕らのクラスが、 トップで西尾に繋いだ。 複雑だった。 西尾の顔を見て、 複雑だった。 隣りで友達が、 西尾が飛び込む前から笑っていた。 飛び込んだ瞬間、 友達みんなが、 笑い転げた。 クラス以外の男子も、 釣られて笑い出す。 僕の一言で、 こんな事になった。 責任を、 感じていた。 僕は、 笑えなかった。 この笑いは、 違うと思った。 校長先生が、 スーツのまま、 プールに飛び込んだ。 一瞬にして、 みんなが笑わなくなった。 頑張れ! 頑張れ! 校長先生が、 西尾の手を取り、 必死に叫び続けた。 何となく、 助かった気がした。 友達もみんな、 間違いに気付いた。 頑張れ! 僕も、 叫び出した。 友達も、 プールサイドの全員も、 頑張れと叫んだ。 僕は、 誰よりも大きな声で、 頑張れと言い続けた。 これだけは、 誰にも負けられない。 そう思って、 叫び続けた。 ゴールした。 良かった。 良かった。 涙が、 止まらなかった。 僕は飛び込んだ。 誰よりも、 先に飛び込んだ。 そして 西尾がプールから上がるのを手伝った。
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