岡崎汐AFTER‐Ⅱ‐

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 「うわあ…」  学校の手前――光坂高校の校門に続く長い坂の両脇には、美しく咲き乱れる桜並木があった。  ここに桜並木があることは知っていたが、満開になったところは初めて見た。  春風に散っていく桜の花びらの一枚一枚が、まるで宝石のように美しい。  その光景に私は、ただ感動した。  「凄くきれい…」  私は、暫く桜並木を見上げていた。  これからどんな出会いがあるのだろうか――そう考えるとまた胸が踊った。  「――ほう、君はここの桜が好きか?」  後ろから声が聞こえた。  少し驚いて振り返ると、そこには長いストレートの髪をした女性が立っていた。  頭にはカチューシャをしていて、服装は――私服だろうか。年齢は分からないが、清楚な感じのする美人だ。  ポカンとする私を見て、女性は少し口元を緩めた。  「いや、失敬。君が桜を見上げていたものでな。そうだと思ったんだが――」  「え…、いえ。私は好きですよ。ここの桜、きれいですし」  実際、ここの桜は純粋にきれいだと思う。少なくとも、初めて見た私が好きになってしまうくらいには。  「…そうか。気に入ってもらえて何よりだ。ここの桜並木は何十年も前からあってね。私も高校時代、初めて見たここの桜並木に魅せられたんだ」  気持ちはよく分かる。私もその1人になのだ。  「はい。凄く綺麗ですよね。ここの桜は」  女性はフワリと微笑んだ。  「ああ、教員になった今でもそう思うよ。――と、君はここの新入生かな?」  今気付いたのか、女性が尋ねる。  「あ、はい。そうです。……えっと、あなたはここの教師ですか?」  「ああ。一年英語担当の《坂上 智代》という。君は?」 「一年の岡崎 汐です」  私は簡潔に答えた。  すると、何故か英語教師――坂上先生は、何やら口元に手を当てて何か考えていた。  「岡崎? もしかして――いや、思い違いか…」  どうやら私の名前に覚えがあるらしい。私はこの教師に覚えなどないのだが。と――  学校から本鈴15分前を告げるチャイムが聞こえた。そろそろ坂を上らないといけない時間帯だろう。  「あの…坂上先生、一年間よろしくお願いしますっ!」  何やら考えている坂上先生にバッ、と頭を下げると、私は坂を駆け上った。  「あっ、すまない。引き止めてしまったな」  背後から坂上先生の声が聞こえた。  新しい校舎はもう目の前だった。
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