~ 壱 ~

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  父と兄が殺される夢だ。二人がどの様に死んだかは、俺は知らぬ。これは俺の想像から生まれた夢だ。 母の夢を見た事は無かった。見なくとも母の死に際なぞ、鮮明に思い出す事は容易かったのだ。 父と兄に弓が射られ、ばたりと死体の山に倒れ込む。その瞬間に、いつも俺は目が覚めるのだった。 左の胸が高鳴っている。息をするのが苦しく、背中にはじっとりと冷や汗が。 いつもと同じだ。落ち着け。暫くすれば胸の鼓動も治まり、呼吸も元に戻るであろう。 けれどもその日だけは、いつもと同じ、では無かった。
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