~ 壱 ~

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  母に教わった、丁寧な言葉を思い出す。目上の人と話す時は、そういう言葉遣いをするように言いつけられていた。 相手の男は俺の言葉に、少し目じりを下げた。穏やかな笑みだった。 「いやね、君がこんなところで眠っていたから。子供が夜に一人とは危ないと思ってね」 「左様ですか。ですが俺、いや、私には家も無く、親も無く、食べる物も御座いません。一人なのは仕様の無いことなので御座います」 俺は淡々とした語り口でそう言った。ややあって、男は俺から視線をそらし、問うて来た。 「それは、天涯孤独ということかい」 「ええ。ですから仕方なく、此処で眠っていた次第です」
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