宝石の主

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 森は青々と茂っていた。日の光が燦々と降り注ぎ木々の隙間を温かくすり抜ける。  柔らかな絨毯のように敷き詰められた落ち葉の上でチラチラと木漏れ日が踊った。  穏やかな時間の中ゆっくりと成長したその森は、暖かく静かに多くの生き物を包み込み育んでいた。  森の奥には館が佇んでいた。  石造りの優美な建物。  前庭には噴水があり、そこに至るまでの小道の脇には、色とりどりに美しく咲き乱れた可憐な花々が、通る人々の目を楽しませ、そして心を和ませた。  さやさやと水の流れるせせらぎの音。暖かな春風がそよぐ。  とても気持ちの良い陽だまりの――午後だった。 ――…………よ……。 「――?」  少年は何かに呼び止められたような気がして立ち止まった。声のした方を振り返る。  誰も居ない庭先を見つつ首を傾げる。それと同時に釣鐘草の花を思わせる薄紫の髪が揺れた。肩まで伸びた髪は真っ直ぐでさらさらと流れる。  不思議に思いつつも、少年は気を取り直して庭の中にあるお気に入りの場所に向かって走り出した。
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