酒場

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『お姉さぁん!酒1杯頼むよ。』 港町の大通りの一角にある酒場 は、昼間から大いに盛んだった。 店内を占めるテーブルには空き が2つほど。 カウンターに至っては、町の漁 師や農夫、旅人など体格の良い 男たちが程よく頬を染めて、所 狭しと陽気に酒を飲み交わし、 話に花を咲かせている。 すべてが木造のこの店では、男 たちが歌い笑い、飲み食いする たびに店全体が少し軋むのでは ないかと思われるほどだ。 そんな中、旅人が2人店内の隅 にあるテーブルの椅子に腰掛け ていた。 『なぁ頼むっ!1杯だけにしとくからよぉ…。もう1週間も酒飲んでないんだぞ。』 『いや、1週間と2日だ。』 『なら尚更飲ませろっ!』 酒に飢えた青年は短髪黒髪、軽 く四方に跳ねる髪は活発そうな 印象を与える。 少し日に焼けた肌は健康そのも ので、細身ながら無駄のない筋 肉が旅の労働を助けているよう だ。 『見ろ、この牛の胃袋を。中に入ってるのは銅貨3枚だ。もはや財布とは言いにくい。酒は諦めろ。』 そう言って牛革製の財布を木製 のテーブルに乗せて見せる青年 は、銀髪。 少し目にかかる前髪の下には、 “口をへの字に曲げた堅物”と でも描写できる難しい表情を覗 かせる。 どうやら酒の前に、金に飢えて いるようだ。
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