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すっと奥の襖(ふすま)の開く気配がして振り返った。
僕の目に飛び込んできたものは何もない部屋、
ただ真ん中にテーブルと、座布団が敷いてある。
そして開いた襖には、仲居らしい女の人がいた。女の人というより、女の子といった感じの十七、八の娘であった。
僕は、驚きと僕の目に入っている風景にはあまりに不似合いな少女につい、見とれてしまっていた。
「お客さん、都会から来たんですか?」
ここは旅館だ。
しかもそうとう田舎のようだ。
しかし都会からと聞かれても、自分のことが思い出せない。ただ頷くしかなかった。
それを見て少女は、言葉を続けた。
「お客さん、真治さんって言うんでしょ?武田真治さん。宿帳見たんだ。」
そうなのか…いや、確かに僕は
“武田真治”
間違いなくそうだ…
しかし…
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