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1 船出の鐘は三度鳴る
マナが、実家のラマトールを離れて二十日を過ぎた。
今、彼女は政府により実家へと強制送還されるところだった。
マナが居る監獄島は、ラッドサンド大陸中央に位置するミフィア湖に浮かんでいる。島の西と東に監獄があることで有名で、島の外形は、複雑に入り組んでいる。また、外敵を防ぐために設えた結界が島を覆う。そのことから人々は、島を監獄島と呼んでいた。
朝方。マナは、監獄島の船着き場に居た。手に小さな鞄を抱きしめている。
監獄島唯一の入口であり出口と呼ばれる船着き場には、緩やかな風が吹いていた。
船着き場に架かる桟橋の袂には、ひとりの老婆が椅子に座る。
マナは、島の門番と呼ばれるもぎりの老婆に船への搭乗券を渡す。搭乗券は、三日前に渡された物であった。長方形の切れ端に、行き先だけ印字してある。
老婆は婆様と呼ばれ島の庶民に親しまれる存在だった。木材で作られた低い椅子に腰掛けている。膝には、地方には珍しい唐草模様の布を掛けていた。
婆様は、搭乗券の端を皴だらけの手で切り取り、半券をマナへと返した。切り取った部分を網細工の籠に入れて、婆様はマナに顔を向ける。
「いってらっしゃい」
早々に立ち去ろうとするマナに、穏やかな靨を覗かせた。
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