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「マナさん。先に乗ってたんですね。探しましたよ」
マナは名前を呼ばれ、眺めていた物を隠して振り向いた。
そこには、皺が目立つ紺色のスーツを着た眼鏡姿の監視役が立っている。男とも女とも区別の付かないその中性的な顔立ちに、優しげな笑みが浮ぶ。マナは、スピカの性別を未だに分かっていなかった。性別を訊ねるのも気が引けるので、確かめてはいない。
「スピカさんこそ先に乗っているかと思いました」
マナは、咄嗟にそう答えた。監視役と言っても悪い人間ではないことは、関わって来たマナが一番良く知っている。
スピカはマナが監獄島へ流れ着いてから今まで、何かと世話を妬いてくれた。マナが、実家へ帰る決心をさせてくれたのもスピカが案内してくれた場所のお陰で、自然と一緒にいる機会は多かったように思う。その事にはマナも少なからず感謝はしている。それに、何かというと自由にしてくれたのもスピカだった。
それでも、どこかで疑る性格と幼い頃から教え込まれた神官領域での教訓がマナをスピカや政府組織に携わる人間から遠避ける。
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