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スピカが制止の声を上げた。しかし、駆け出したマナは、前方に居る人間にぶつかった後だった。
「あわわ、ごめんなさい」
「大丈夫、気にする必要はない。それより、身体には気をつけるべきだ。君だけのものてはないからね?」
慌てて謝るマナの前には、紳士服を着た長身の男がいた。男は薄い笑みを浮かべ、囁くように言い残し、甲板の手摺に寄り添う女の元へと静かに歩いていく。
長身の男に似合いの女は、黒い詰め襟のワンピースに身を包み、鳥を眺めていた。
女の背中まで伸びた黒髪が、男に振り向くと同時に揺れる。男と同じ東国にある黒真珠のような眼差しがマナには美しく見えた。
スピカに二度ほど名を呼ばれたマナは、二人に見入っていたことに気がつく。
「スピカさん、あの方達も私の監視役ですか」
先程の男の言葉をスピカに告げる。スピカが眉を跳ね上げ、マナの腕を引き、船内の通路へと移動を促す。
「どうしたんですか」
マナが質問すると、スピカは甲板を一瞥する。
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