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 馬車が停まる。スピカは上着の内ポケットから財布を抜き出そうとして固まる。話しながら、しかも、急いで事務所を出てきたために財布がないことにまったく気がつかなかったのだ。 「ごめんなさいっ。第一等事務所から貰ってください。それでは」  第三等事務所の門前で、馭者のひきつり笑いに、頭だけ下げたスピカは目的の女のところへと向かう。  スピカが通された控え室には、翡翠の瞳が美しい二十歳を迎えたばかりの女がいた。 「初めまして、あなたが、マナさんですか」  スピカが訊ねると神官領域からミフィア湖を渡りやってきた女は頷く。短めの黒い髪の毛が僅かに揺れた。  マナの名前は、朝方に送られたメルで聞いている。  スピカは名刺を手渡そうとしたが、マナは受け取らない。仕方なしに対に座り、事情を聞こうと口を開いた。 「ええと、神様に会いたいとのことなのですが、一体、何があったんでしょうか」 「お願いです。助けてください」  俯くマナから、言葉は滑り落ちる。 「あの、何から助ければ――」  スピカは、疑問を問い掛けたが、マナの沈痛な表情に質問を撤回した。 「分かりました。今日は、僕の言うことを聞いてください。悪いようにはしませんから」
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