fantasy

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隣の奥さんが言っていた。 「あの人は精神的におかしいのよ。毎晩叫んで、煩いくらいに物を荒らしてるのがこっちにも聞こえてくるのよ」 あれは何のことだったのだろう、と今さらながら、朝食の林檎を食べて思った。 そういえば、昨日も林檎を食べた。 昨日と言わず、昨日の昨日も一週間前も、林檎だった気がする。 一日中林檎しか食べていない。 これじゃあ栄養が偏ってしまう。何か他の物を食べなくては。ぐるり、と部屋を見渡したが散らかっていてよくわからない。結局、台所に嫌になるほどたくさん置いてある、林檎の赤しか目に入らなかった。 ああ、そうか。私は明日処刑されるのだから、別に栄養のことなんて、気にしないでも大丈夫じゃないか。 そう考えて、また私は林檎を頬張った。 林檎特有の、みずみずしい歯ごたえと爽やかな甘さが、口の中を支配する。ふと傍らをみると、机に忘れられたように、無造作に置いてある薄い回覧板があることに気づいた。 少し汚れた回覧板、そういえば隣の奥さんに渡さなくては。 ついでに自分は明日からいなくなるから、回覧板を回さないでくれと頼まなくてはいけない。 嫌だな、隣の奥さんは話が長い。しかしいつまでも回さないわけにはいかないので、ゆっくりと重い腰をあげた。
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