fantasy

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テレビをつける。ブラウン管越しに見る俳優や女優達は、笑顔を絶やさない。 まるで貼り付けたような、私には幼稚園児が工作で作った花よりもちぐはぐに思えた。 ちょうど私の恋人も、こんな笑い方をする。確か今日の夜九時からのドラマに主役で出るはずだから、見てみるといい。 恋人が殺される前夜も、仕事だから会えないらしい。仕方がないことだが、やはり寂しかった。 だけれど、これで終わりだとしたら余りにも淡白すぎる。これじゃあ恋人なんて言えないから、私は彼女に手紙を書くことにしよう。 どんな文面にしようか、どういう風に書けば、彼女に伝わるか、そう考えている時間が今までの人生の中で一番満たされている気がした。 『私は隣の奥さんにも回覧板を回せなかった、ちっぽけな奴だけど、確かに君を愛していた!』 読まれなくてもよかった。 ただ、書き留めておきたかった。 今、私は非常に満足している。 愛するべき恋人がいて、暖かい家があり、食べ物も十分にある。こんな中で世を思いながら死ぬなんて、とても幸せだと思う。 未練もなく死ぬなんて、人には無理なんだから、今処刑されて死んだって、数十年後に死ぬのだってそう変わらない。幸せのなか死ぬほうがいいんじゃないかと思う。 みんな、私を「かわいそう」だとか言うけれど、そんな同情真っ平ごめんだ。 むしろこれからもたくさんの苦労を迎えるであろう君たちのほうが「かわいそう」だ。 とにかく私は幸せだった。 けれど世の中に疲れていた、幸せだけど疲れていた。
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