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「もう帰るの?」
玄関へと足を進めると後ろから不意に抱き締められた。
背が幾分高いから少し屈んで耳元に口唇を寄せ擽るように囁く乃亜の行動には一向に慣れない。
「遅いし帰る。おまえも明日早いんだからさっさと寝ろよ。」
確実に紅くなってる顔を見せたらからかわれるのがわかりきってるから絶対に振り向かない。
俺の必死の思いも虚しく、さらに顔を覗かせた乃亜の紫の瞳にたぶん俺の紅くなった顔が写ると僅かに笑みを零し、こめかみに口唇をのせた。
だから!
そういうのが照れるんだって!
「折角こういう時間ができたのに一緒にいてくれないの?」
寂しげな声が聞こえて思わず見上げると切なげに目を細めるその表情に思わず胸が高鳴った。
「あっ」
会いたかっただけ。
とは、恥ずかしすぎて絶対に言えない。
どうしても肝心なところで一言言えない自分に腹立たしささえ覚える。
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