田中由美子~file1~

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「ねぇ、この式って何時まであるの?」 「えっ??えっと……。そろそろ終わりやない?」 隣の女の子はいきなり話し掛けられて驚きながら先ほど貰った資料を開いていた。 (終わるのは分かってんだよ) 「あっ、もう終わりなんだ…。ありがとう。」 オレは真剣な顔で女の子の返答を聞いて、笑顔を返しながらお礼を言った。 「いえ……。」 数分後には予想通り入学式は終わり、順番に移動になった。 「はぁ、やっと終わったね。ねぇ、今、何時かわかる?」 オレは彼女がこちらを向いてからネクタイを少し緩めた。 「えっと………。」 彼女は左手の腕時計を見た。 「10時30分で……」 「おっ?イケてる時計してるね。」 「あっ、買って貰ったんです。」 「へぇ、ちょっともう一回見せて……。めっちゃオシャレじゃん。」 オレは彼女の手をとって時計を見せてもらった。 「ありがとう。結構、お気に入りなんだぁ。」 「…でも、そういうのをするのってセンスいいね。似合ってるし。可愛いよ。」 「えっ……あっ、ありがとう。」 彼女のお礼を聞きながらオレは結った髪をほどいて首をふった。 乱れた髪をゆっくりかきあげてから彼女に微笑んだ。 「うん。可愛いね……。んじゃあ、次の教室までいこうか?」 そう言ってオレは立ち上がった。 「あっ、うん。」 「次はどこだっけ?」 予定通りだった。 別に一緒に行こうと言った訳ではないのに彼女はオレの横を付いてきた。 当然、彼女が大事そうに何度も触る時計はチェックしていたし、時間なんて気にもしていなかった。 要はツカミだ。 移動しながら普通の話をした。 彼女は田中由美子。 こっちが地元で実家通い。 高校卒業後にストレートで大学生になったらしい。 どうりで……。 オレが単にツカミだった事に予想以上に食い付いていやがる。 さっきから笑顔全開だし、やたら質問攻めだ。 この程度でこれなら楽勝だ。 「しかし、由美子はセンスがいいね。そのピアスも可愛いし、でも、由美子がイケてるからそこまで可愛く見せるんだね…。」 ヤレヤレ、オレもほめちぎるねぇ。
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