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手をつないだまま、バスの外の景色は流れていった。
そのまま、オレは特に何を話す訳でもなかった。
っというよりも…、何も言えなかった。セリフが思いつかない、いや、何も話さない方が良いような気がした。
「ウチ…、次なんだ。降りよう。」
オレは由美子に出来る限り近づいて、耳元で囁いた。
「………うん。」
オレは2人分の料金を払ってバスを降りた。左手は由美子の手を握りしめたままだ。
「…えっと、あそこの302号室がウチ…。」
オレはちょっと離れたマンションを指差した。
「…そうなんだ。………。」
「じゃあ、駅まで送るよ。」
オレはそう言って、つないだ手を引き寄せて肩を抱いて歩き始めた。
由美子も何も言わずに歩き始めた。
オレ達は道幅が狭い為に、駅への道を真っ直ぐではなく、裏道に入った。
(さあて…っと、いきますか…。)
もう完全に日が暮れて、春の風は優しく包み込んでいた。
遠くで花の香りを感じたような気がしたのは……由美子の匂いだったのだろうか………。
(素直に来いよ、由美子さん………。)
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