熱帯夜の華

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木々が生い茂る森の一本道を一台の白黒バイクが走る。 その踏み固められた土の道の上には、日光が眩しいほど降り注いでいる。 道の両脇には、所狭しと木々が立ち並び、枝を大きく伸ばして日光の獲得に励んでいた。 その木陰が生み出す幻想的な風景に、私は心を躍らせながら、バイクの生み出す風に当たっていた。 とは言っても私がバイクを運転しているわけではない。 私の名前は流星。これでも立派な雄犬である。 灰色と白の毛で、背中に灰色の毛が筋のように走っている。 毛並みは多分モコモコ。 私は今、いつものようにバイクの荷台に乗っている。 そして、そのバイクを運転しているのが私のご主人である。 黒い髪に灰色の瞳をしていて、いつもなら黒いジャケットを着ているが、今日はいつもジャケットの下に着ている真っ白なワイシャツ姿、 そしていつもの黒いズボン。 考えどころか、性格すらわからない全く謎な人間である。 そんなご主人には名前が無い。 理由は不明。 それ故に私は“マスター”と呼んでいる。 マスターは一応旅人である。 黒と白のなんともモノクロなバイクで“世界”を見て回っている。 今も旅の途中で、季節は夏。 現在、もっとも日が差す時刻である。 今までの内容から涼しいと思ったら大違いで、実際に私は舌を出して体温調節に励んでいる。
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