熱帯夜の華

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マスターは“ヴァロラ”から降りるとそのまま、“ヴァロラ”を押して、森へと入って行った。 …本当におかしくなったとか? そう思った私の鼻が、清らかな水の匂いを嗅ぎ取った。 しばらく歩くと、突然森が開け、小さな湖が姿を現した。 マスターは木陰の下で“ヴァロラ”にスタンドを掛けると、腕まくりをして湖に駆け寄った。 「うはっ 冷てぇー 癒される…」 水に手を入れて、バシャバシャと遊ぶその後姿は、普段のマスターとは180度違っていた。 やっぱり暑さでおかしくなってますね、マスター… 「おい流星、ちょっとこっち来い。」 私はある意味で呆れて、ある意味で肩を落としながらマスターに歩み寄った。 寄って来た私をマスターは抱きかかえると、 そのまま湖に放り込んだ。 私は必死で陸に這い上がると、マスターを睨み付けた。 そんな私をマスターは平気な顔をして見て、言った。 「涼しくなったろ?」 もう口をきいてやらない。 私はそっぽを向くと、体を振るわせた。 ずぶ濡れでは気分が悪い。 鼻の先から、尻尾の先まで。 「おい、止めろよ!濡れるだろうが!」 私をずぶ濡れにしたくせに何を言うんだか。 …ふぅ。すっきりした。
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