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突然、空が光ったかと思うと、次は大きな破裂音が聞こえたのだ。
何事かと私は身を構えたが、マスターは流暢に冷ましてあったコーヒーを啜った。
その間も、空は光り、破裂音が響く。
あたりを見回す私を見て、マスターは言った。
「お前、花火見たこと無かったっけ?」
事情を知っているような口ぶりのマスターに、私は言った。
「“はなび”ってなんですか?」
「大量の火薬を丸い玉に込めて、空に打ち出すこと。
で、その火薬が花のように散るから、“花火”。
…空、見て見ろよ。」
そう言って、マスターはまた一口コーヒーを啜ると、空を見上げた。
私もそれに続いて空を見上げる。
黒い空をバックに、色とりどりの光が、丸く円を作り、散っていった。
それが幾つも幾つも夜空を彩り、散っては消え、散っては消えを繰り返していた。
形、色、大きさ…一つ一つは違うけれど、どれも皆、同じように消えていった。
「火薬って、こんな風にも使えるんですね、マスター」
「アレを打ち上げてる人間はよっぽどの暇人だな。火薬が勿体無い。」
「でも――」
私は、空に打ち上げられる“華”を見ながら、マスターに言った。
「でも、綺麗だから、それでいいじゃですか。」
しばらくの沈黙の後、マスターは言った。
「…そうかもしれないな。」
黒い夜空に、星と、三日月と、鮮やかな“華”が輝いていた。
明日もきっと、暑いだろう。
でも今は、暑さを忘れさせる美しい“華”が、空に輝いていた。
=終=
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