名も無い男と一匹の犬の物語

命を奪うこと、奪われること

「アンタ、最後に言いたいことはあるか？」

男は一瞬拍子抜けした顔をしたが、すぐさま言った。
「どうして俺達を殺すんだ？お前は突然、俺達の領地に入って来て、この通り全滅だ。」
そう言って男は肩をすくめて見せた。余裕そうに見えるが、声が震えている。

誰だって、死を迎える瞬間はそうだ。

男とは対照的に、マスターは平然と答える。
「“仕事”、だから。アンタを殺して、オレは明日を生きるわけ。“弱肉強食”って言うだろ？
アンタはたまたま“弱者”だっただけだ。」
それだけ言うと、マスターは他には？と言うように首を傾げた。
地面に座り込んだ男は目の前の銃口を見てから、マスターを見上げた。

そして、その人生最後の言葉を言った。

バァンッ――

最後の銃声が響いて、廃墟に静寂が戻った。