命を奪うこと、奪われること

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それからしばらくして、廃墟から一人の男がおそるおそるといった感じで出てきた。 さっき、マスターが殺さなかった盗賊の頭だった男だ。 その頃マスターは、司祭たちが乗って来ていた大型のトラックの荷台を漁っていた。 本人曰く、「やったからには報酬は貰う」とのこと。 ついでに消費しきった火薬も頂くらしい。 一通り荷台を漁ったらしいマスターは、その手に金目のものと火薬を持って出てきた。 元・頭の男はマスターを見つけると、ゆっくりと歩み寄ってきた。 「…約束の報酬だ」 男は大きな袋を、地面にどかっと音を立てて降ろした。 中からは金属が擦れ合う音が幾重にも聞こえてくる。マスターの言うように、相当の量らしい。 マスターは何も言わずに袋を開けると、中身の装飾品や金貨や銀貨や宝石やらを小さな山ができるくらいに地面に広げた。 ちょうど、それを持ってきた男の足元に、だ。 そして、まだまだ中身の残る袋の口を閉めて、マスターの持ち物である白黒バイクのわずかな荷台のスペースに積んだ。 マスターは男を振り返ると、地面で光る小山を指してこう言った。 「それ、やるよ。アンタの仲間を皆殺しにしたのはオレだし。 オレにはこれだけありゃ十分…というより、もう積むところないし。」 「私の乗るところが狭くなりましたがね。」 すかさずぼやいた私を見て、マスターは憎たらしいほどの笑顔を浮かべた。 「いいじゃん。どうせ次の國(クニ)で減るだろ。」 よーするに、次の國でお腹一杯食べて、必要なものを買って、ゆっくりホテルで休養。というわけだ。 「…お前、おかしな奴だな…」 光る小山を目の前に、男は呟いた。 「マスターはとことんおかしい人ですから。」 「案外酷いこと言うな、流星」 笑う私たちを見て、男は僅かに頬を緩ませた。
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