命を奪うこと、奪われること

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「さて、オレはもう行くぞ。」 次の國で待つ幸せに浸るマスターに、私は現実を叩きつけてやった。 「マスター。“ヴァロラ”の燃料、抜かれてますよ。」 “ヴァロラ”とは、マスターの白黒バイクのことである。 それを聞いて一瞬固まるマスター。 “ヴァロラ”のタンクを軽く叩く。 返ってきたのは、「コンコン」と空しく響く現実だった。 数秒の沈黙の後、マスターは未だに呆然としている男を振り返った。 「アンタさ、トラック運転できるだろ?近くの國まで連れて行ってくれないか?」 そのセリフに、男の方も疑問符を浮かべたに違いない。 ついさっき、今までの人生を壊した人に、壊した本人が言うセリフでは無い。 しかし男は、戸惑いながらも頷いたのだった。 今のマスターは“殺傷性ゼロ”なのは、男も知っていただろうに。 人間は時々、私には分からない行動を取る事がある。 全く持って意味不明だ。 今回のマスターだってそうだ。 この男を“殺さない理由”なんて無かったのに。 男を殺したって、盗賊の財産は手に入ったのだ。 どうして人間は、自分の利益にならないようなことをするのだろうか? “ヴァロラ”は、トラックの荷台に積まれ、マスターと私も荷台に乗った。 男は運転席に座って、エンジンを入れた。 車が動き始めた途端、昼寝を始めたマスターを私はただただ、呆れて見ていたのだった。 =終=
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