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しばらくして、“持ち主が取り返しに来た”と気付いた男は、逃げようと立ち上がった。
「ちょっと待てよ。」
マスターの手が、その肩を掴んだ。
やけに笑顔で楽しそうなマスターが、コワイ。
「こっちの要求通り、本物だったんだ。いくらでもくれてやるよ…オ・ト・シ・マ・エ。」
最後の方は、極上の微笑で。
その後、顔面を殴られて即気を失った男と、「ねぇ~やっぱり私も買ってってぇ」としつこく擦り寄る女を残して、私の盗難事件は一件落着した。
「あの、一ついいですか?」
「何?」
「どうして助けに来るのに時間かかったんですか?」
「あぁ。闇市行ったら、“喋る犬入荷!”とか言ってる女が居て、下見たらお前居なかったから、買い物ついでに行ってみるかなと。」
「・・・はぁ・・・」
多くのモノが行きかう大通りを真っ白な雪が染め上げる。
そこを歩くのは、
雪とは対象的に真っ黒な服を着たマスター。
その隣には、
自分の身は自分で守るしかないと決めた、私が居た。
=終=
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