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詰め所の簡素なテーブルで、私達は無言で向かい合って座っていた。
「お兄ちゃんが、審査官やってるなんて知らなかった」
ウィズお兄ちゃんとは、彼と三人で遊んだこともあった。
でも、彼が居なくなったあの日から、お兄ちゃんには全く会っていなかったから、何をしてるかなんて知らなかった。
「たまに、ね。叔父さんの手伝いさ。あまり人が来ないから暇でね。」
お兄ちゃんが少し苦笑して言った。
そんなお兄ちゃんを私は見上げた。
私よりずっと年上で、たしか10歳くらい年が離れてた。
真夜中だからか、ちょっと眠たそうにしてる。
そうだ、こんな所で時間を潰してる場合じゃない!
意外な人物との再会で呆然としていた私の脳が、当初の目的を思い出した。
「ウィズお兄ちゃん。私ね、この國の外に行きたいの。…彼を捜しに」
真剣な口調で、お兄ちゃんに訴えた。
「“彼”?……あぁ…弟のことか…あいつは死んだよ。聞いてるだろう?」
一言一言噛み締めるようにそう言いながら、お兄ちゃんは表情を暗くした。
「前に、旅人に会ったんです。その人が、彼の写真を見せてくれました。
彼は、生きてます。」
私の言葉に、お兄ちゃんが体を強張らせるのが分かった。
「あいつが?…まさか。見間違いだろう。…生きてるはずがない…」
「見間違いなんかじゃない!彼は生きてる!!」
“見間違い”
彼のことを言うたびに、そう言われてきた。
でも、お兄ちゃんは分かってくれるはず……
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