彼女の旅

8/9
前へ
/100ページ
次へ
「ふざけるな!!!」 そう怒鳴りながら、机を叩いて立ち上がった。 突然の事で呆然としている私をよそに、お兄ちゃんは怒鳴り続けた。 「あいつが生きてる!?有り得ない!」 「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…」 私は恐くて、必死に謝った。 「あんなガキが國外追放で生きてる筈がない!!それにあいつはボクがっ…」 そこまで言って、お兄ちゃんは急に黙って、肩で荒く息をしながら、私を睨みつけるように見た。 でも、その視線は徐々に和らいで、お兄ちゃんは力尽きたように椅子に戻った。 「…ごめん…あまりに、突然だったからさ…死んだとばかり思ってたしね…」 謝罪の言葉に、少しだけ心が軽くなった。 それでも、お兄ちゃんへの不信感は拭いきれなかった。 早くここから出たい… そう思った私は、本題を切り出した。 「あの…私、出國したいんです…」 恐る恐るそう切り出すと、お兄ちゃんはゆっくりと私を見た。 その目には、さっきのような恐さは消えていた。 「そう、だったね…今夜ボクは、昨日からの徹夜で寝ていた。朝起きると、外に停めてある車が一台無くなっていて、ボクは叔父さんに怒られる。……弟に宜しく……」 そう言ってお兄ちゃんは机にうつ伏せて、微動だにしなくなった。 静けさを取り戻した詰め所から、私は音を立てないようにして立ち去った。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加