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そこは一面に華が咲き乱れていた。
小さな赤い華が、地を覆い尽す様に。
「世界は美しいと思うか?」
華畑から、声が聞こえた。
「人間は愚かで、今も何処かで争って、殺し合って、世界を汚してる。
だけど、人間達の知らない所で、数多くのモノ達が生きてるんだ。
その頭上じゃ、この蒼空が同じように広がってる。
そんな世界を美しいと思うか?」
男の声はそう言った。
「マスター…何を急に悟ってるんですか…頭は大丈夫ですかー?」
男の声の問いに、少年の様な声が返した。
「人間は死ぬとき、走馬灯を見るらしいな。」
「今のは走馬灯じゃないでしょう……肩から血をだらだら流してぶっ倒れて死期を悟るくらいなら、何処かの國(クニ)で診て貰って下さい。」
そう、マスターと呼ばれた男は、赤い華畑に寝そべって――むしろ倒れて、空を眺めていた。
その左肩の何かに引き裂かれた様な傷口からは、血が流れ、赤い華をより赤く染めていた。
見た感じ、重傷。
「まーすーたぁー」
答える気配の無い男に、少年の声は痺を切らしたようだった。
男が無言で見つめる先は、何処までも続く、雨上がりの蒼空。
その空の一角をまだ雨雲が覆っているが、その雲間から降り注ぐ光が、美しいく世界を照らしていた。
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