『真実の月』と『真実の友』

6/15
前へ
/15ページ
次へ
しかしそれが限界…。 穴の底へと引き戻された。 「くそ~!」 ピートは叫ぶと、また壁へと立ち向かった。 何度も何度も立ち向かった。 落ちた時の衝撃は、雪が和らげてくれるけど、壁を蹴り上げる足の裏は傷付いて、痛みが増していった。 「もう限界だ…。」 そう言ってシロクマはのっそりと立ち上がった。 限界というシロクマのつぶやきを、ピートの大きな耳は聞き逃さなかった。 「騒ぐ+限界=食べられる」 ピートの頭の中で、方程式が完成した。 しかし、ピートは怯えるより先に、立ち上がったシロクマの姿を見て驚いた。 座っていた時は気付かなかったけど、シロクマの身体は衰弱し、痩せこけていた。 「シロクマさん…いつからこの穴にいるの?」 シロクマがのそのそと近づくのに合わせて、ピートも同じスピードで後ろに下がった。 「1年以上…。」 「1年以上っ!?」 ピートはシロクマが腹ペコなのを確信したと同時に、食べられる事も確信した。 「何故そんなに『真実の月』が見たいんだ?」 シロクマは近付きながら訪ねた。 「理由なんてないよ。 小さい頃からの夢なんだ。 お父さんとお母さんも見たんだ。 この世の物とは思えないほど美しいって言ってた。」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加