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「人の涙ってのは、理由はどうあれ、心をザーッと浄化するために流れるんだよな。怖い夢で嫌な汗かいて、背中ビショビショにして、ぐじゃぐじゃに泣いて起きる午前2時、なんてぇのは最悪だと思われがちだが、それだって奴が自分で望んだ夢の一抹の結果なのさ。本当は泣いてスッキリしたかったのかもしれないだろ。
誰だって、夢の世界じゃいっぱしの主役なんだよ。どう演じようとシナリオに決められた台詞はないし、ストーリーの結末は固定じゃない。
どうせ朝が来れば、否が応にもタイム・アウトなんだ。まやかしの幻でいいなら、どんな世界でも歩くことができる。」
カノンの相づちを確認しているのかいないのか、タイムは喋り続けている。
「でも、」
割って入るカノンの声に、彼の長い独り言がやむ。
「いくら自分で望んだって、ちゃんとした形の夢ってあんまり見たことがないなあ。」
「そりゃそうさ。あんたがたの夢が変な風に歪んでるのは、単に俺がいたずらしていじってるからだよ。」
はあ?カノンは目を丸くする。
この少年がわたしの夢を脚色してる?
「悪いね、ここでずっと客を待ってるのはなかなか退屈なもんで。100%完璧な夢なんてつまんねぇだろ?つい小細工してやりたくなるんだよなー。」
「あ、ありえない…」
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