1.夢はひらく

8/12
前へ
/19ページ
次へ
    「人の涙ってのは、理由はどうあれ、心をザーッと浄化するために流れるんだよな。怖い夢で嫌な汗かいて、背中ビショビショにして、ぐじゃぐじゃに泣いて起きる午前2時、なんてぇのは最悪だと思われがちだが、それだって奴が自分で望んだ夢の一抹の結果なのさ。本当は泣いてスッキリしたかったのかもしれないだろ。 誰だって、夢の世界じゃいっぱしの主役なんだよ。どう演じようとシナリオに決められた台詞はないし、ストーリーの結末は固定じゃない。 どうせ朝が来れば、否が応にもタイム・アウトなんだ。まやかしの幻でいいなら、どんな世界でも歩くことができる。」 カノンの相づちを確認しているのかいないのか、タイムは喋り続けている。 「でも、」 割って入るカノンの声に、彼の長い独り言がやむ。 「いくら自分で望んだって、ちゃんとした形の夢ってあんまり見たことがないなあ。」 「そりゃそうさ。あんたがたの夢が変な風に歪んでるのは、単に俺がいたずらしていじってるからだよ。」 はあ?カノンは目を丸くする。 この少年がわたしの夢を脚色してる? 「悪いね、ここでずっと客を待ってるのはなかなか退屈なもんで。100%完璧な夢なんてつまんねぇだろ?つい小細工してやりたくなるんだよなー。」 「あ、ありえない…」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加