8人が本棚に入れています
本棚に追加
「…おい。」
空気を割るような声に彼女ははっと振り返る。おかしい。誰もいないのに、わたしは誰かに呼ばれたみたい。
「ここだよ、こーこ。上!」
言われるがまま首を上にあげると、そこには一人の少年が宙に浮いていた。
いや、見えない壁の上に腰かけているようだ。彼女を見下ろしているその目付きは、お世辞にもいいとは言えない。かったるそうに腕を頭の後ろで組んで、じぃ、と舐めるように彼女を見つめている。
「…。」
彼女は少年を見上げたまま考える。…12歳、違う、14歳くらい?やんちゃ盛りの中学生ってとこか。
にしても、彼のこの恰好はなんだろう。茶色いシャツに緑の半ズボン、黒いベルトと同じ色のブーツ。「やあ、僕は森の子!」とか言って登場してきそう。名前はなんだ?リーフィー?
ていうか、彼は、まるで…
「ピーターパン…」
「ピーーーーーターパンじゃねえよっ!」
途端に少年が眉を吊り上げる。
「ったくよぉ、長いなあ、思考時間がよー…」
ぶつくさ言いながらピョーンと壁から飛び降りて(もっとも壁なんてものは見えないのだが)、彼女の前にストン、と着地する。
「女一名様、夢の世界にごあんなーい」
誰が聞いているでもなく、少年が声を張り上げた。
女一名?わたしか。
夢の世界?舞浜あたりにそんなのがあった気がする。夢と魔法の王国。
ああ、この子の髪はなんて柔らかそうなんだろ。
「やっぱりピーターパン?」
「ちげぇっつってんだろ!」
最初のコメントを投稿しよう!