1.夢はひらく

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「…おい。」 空気を割るような声に彼女ははっと振り返る。おかしい。誰もいないのに、わたしは誰かに呼ばれたみたい。 「ここだよ、こーこ。上!」 言われるがまま首を上にあげると、そこには一人の少年が宙に浮いていた。 いや、見えない壁の上に腰かけているようだ。彼女を見下ろしているその目付きは、お世辞にもいいとは言えない。かったるそうに腕を頭の後ろで組んで、じぃ、と舐めるように彼女を見つめている。 「…。」 彼女は少年を見上げたまま考える。…12歳、違う、14歳くらい?やんちゃ盛りの中学生ってとこか。 にしても、彼のこの恰好はなんだろう。茶色いシャツに緑の半ズボン、黒いベルトと同じ色のブーツ。「やあ、僕は森の子!」とか言って登場してきそう。名前はなんだ?リーフィー? ていうか、彼は、まるで… 「ピーターパン…」 「ピーーーーーターパンじゃねえよっ!」 途端に少年が眉を吊り上げる。 「ったくよぉ、長いなあ、思考時間がよー…」 ぶつくさ言いながらピョーンと壁から飛び降りて(もっとも壁なんてものは見えないのだが)、彼女の前にストン、と着地する。 「女一名様、夢の世界にごあんなーい」 誰が聞いているでもなく、少年が声を張り上げた。 女一名?わたしか。 夢の世界?舞浜あたりにそんなのがあった気がする。夢と魔法の王国。 ああ、この子の髪はなんて柔らかそうなんだろ。 「やっぱりピーターパン?」 「ちげぇっつってんだろ!」
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