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元の調子を取り戻した耕介は食事の間も舌好調でニコニコと栞に話かけ続けた。栞からすれば、話すのが苦手なだけあって、会話を振ってくれる耕介は一緒に居て楽な存在だった。
「やっぱり人多いねー」
お店から出ると、もう日は沈みそうで、それまであまり居なかった人も増えてきていた。
「ここから、歩いてそんなにかからないと思うんだけど、歩いても大丈夫?」
周りの浴衣姿のカップルを見ながら、はっとした耕介は栞の足元の下駄を指さしながら言った。
「…たぶん。これ、履いたことないから分からないけど」
栞は、え?という顔で耕介を見た後、ああ、と理解し、困ったように首をかしげながら言う。
「よし、行こうか!じゃあ痛くなったらおぶるから言ってー」
耕介はそんな彼女を見て、ハハっと笑い、親指をグッと立て、冗談めかして言った。
───────
会場の河川敷に近づくにつれて、人はどんどんと増えていく。耕介は身長の低い彼女を見失わないよう必死だった。しかし、少し目を離しただけで居なくなりそうな彼女に不安になる。
「だあーーー、ダメだ!栞ちゃん、嫌かも知れないんだけど。……嫌だったら断ってくれていいんだけど…」
立ち止まり、栞の方へ振り返ると、いきなり立ち止まった耕介に戸惑う彼女に向かって、そんなことを言いながら、右手を差し出した。栞は耕介の手の意味が分からず首をかしげる。
「手。…貸して」
それまで照れたような顔をしていた耕介がぐっと真剣な顔をして、何も言わず自分を見上げる栞の左手をとった。そして、ぎゅっと握る。
驚いた栞が繋がれた手を見てから、耕介の顔を見ると、彼は相変わらず真剣な表情で。そのくせ、耳は赤くなっていて。
「…はぐれたらやだから」
彼の言葉に栞はこくんと頷き、彼の手をぎゅっと握り返した。
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