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「俺の彼女に何してんの」
ぎゅっと目を瞑り、俯き気味だった栞の頭上にドスの効いた声が降りかかる。
真横で、ひっ!と息を飲むような音が聞こえたと思ったら、すぐ隣に聞こえていた男の息遣いが聞こえなくなり、体温も無くなった。
─ぎゅっ。
その代わりに目の前から真っすぐに抱きしめられる。
「大丈夫だった?」
栞は、ふぅっと息を吐いて、ゆっくりと目を開けた。目の前は白いポロシャツで、くんと匂いを嗅げば、すぐに誰か分かった。
「…緒方くん……、ごめんなさい」
安堵で頬が緩みながらも、口から出たのは謝罪の言葉だった。
「なんで謝るの?助けるでしょそりゃあ」
不思議そうな耕介の声が耳元で聞こえ、栞の身体はぴくっと跳ねた。その彼女の反応に耕介は笑いながら、彼女を自分から離した。そして彼女の隣に腰掛ける。
「……どうして、って……会って早々迷惑かけたから…」
栞は戸惑いながら、それでも自分の方を向く耕介をしっかり捉え、話す。
「迷惑じゃないよ。……俺が嫌だったから、さ」
耕介は自分を見る彼女に照れながら、にこっと笑って返した。そして、嫌?なにが?と言いそうな首を傾げる彼女に、何でもないと再度笑った。
───────
「ゆ、…浴衣可愛いね。よく似合ってる」
“見た瞬間からこれはやばいと思ってた”──そんなこと言えるはずもなく。
勇気を振り絞って言えたのは、このセリフ。栞は、ありがとうと僅かに微笑んだ。
「なんか、髪まとめてると、違う感じするね」
右サイドに寄せられた髪は、綺麗に巻かれ、見えるうなじから艶っぽい印象を受けるようになっていた。浴衣を無事褒められた耕介はニコニコしながら髪型も褒める。
「……変じゃない?」
褒められ、今度戸惑うのは栞の方で、俯き、少し頬を赤らめながら視線を上げる。
──ッ!!は、破壊力……
結果的に丁度、上目遣いになってしまい耕介はきゅーんと胸を鷲掴みにされ、うんうんと必死に頷いた。
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