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「さっきは“彼女”とか勝手に言ってごめんね…」
栞の可愛さ(無意識)に完全敗北を喫した耕介は、気を取り直して食事をとりに行こうと彼女を誘った。頷いた彼女を連れて歩いていたが、彼女は特に話すわけでもなく耕介の約20cm横を着いていくように歩いていた。
そんな二人の微妙な距離感に耕介は居ても立っても居られず、不意に思い出した先ほどの出来事を思い出して、彼女に言った。
「ああいうとき、どうやって助けていいか分かんなくてさ…」
なんで言い訳しているんだろう。
そう思いながら、彼の口から言葉は突いて出てくる。
「なんか、こうムカついて出ちゃって…」
栞は足を止め目を丸くし、彼の背中を見る。身振り手振りを交え言い訳しながら歩く彼は、栞が足を止めたことに気づいていない。
「……緒方くん」
自然と緩む口元で彼の名前を呼んだ。振り返った彼は、はっとしたような表情をしていた。
「…ありがとう」
にこっと笑う栞に耕介は再び胸を掴まれる。こくんと頷き、隣にかけてくる栞をまともに見れないまま視線を落とした。
「…別に、気にしてない、です」
再び進み始めた二人の間に栞がぽつんと消えそうに言葉を落とす。聞き取れなかった耕介が、ん?と聞き返すと、栞はふるふると首を横に振る。
「さっき、“彼女がどうの”って言ってたでしょう?」
「あ、あぁ…」
「あれ、気にしてないよ、って…」
彼女は自分より25cmも身長の高い彼を見上げ、自分の方を見ようとしない彼を不思議に思いながらも言った。
「そっか。…良かった」
少し間をおいて、耕介はふぅと息を吐いて、栞の方を見て、にこっと全開の笑顔で言う。
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