39人が本棚に入れています
本棚に追加
仰け反るように倒れた怪物が地面に着くよりも速く、男はデザートケープの下から、剣呑な形をした刀身のサバイバルナイフを抜き出し、素早くかつ正確に胸骨を避け、鳩尾から角度を付けて心臓を刺し貫いた。
ゴボゴボと怪物の口から更に多量の血塊が溢れ出たが、男はなんら表情を変えぬまま、力を加えて刀身の根元までナイフを押し込み、手首を捻った。
「――ゴボッ!!」
一際盛大に血塊を吐き出し、怪物は大きく全身を引きつらせて息絶える。
男は頬に着いた返り血にも表情を変えず、血塗れのナイフをデザートケープで拭うと懐に収め、気を落ち着けるように大きく息を吐いた。
頭を巡らし街路に転がっているもう一つの亡骸を見遣る。
この化け物の餌食となった物乞いだった。
見開かれた眼は光を失い、失われた血によって肉は蒼白い。
「…………」
男は何事かつぶやいた。
だが降りしきる雨音に消され、無人の街路において、その言葉を聞きとった者はいない。
男は物乞いの亡骸に歩み寄り、しゃがみこんで顔に手を伸ばそうとし――
不意に、背後から烈迫の気合が雄叫びと化して近付いてきた。
「ほぉおおわちゃあああっ!!」
最初のコメントを投稿しよう!