迷い犬

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 仰け反るように倒れた怪物が地面に着くよりも速く、男はデザートケープの下から、剣呑な形をした刀身のサバイバルナイフを抜き出し、素早くかつ正確に胸骨を避け、鳩尾から角度を付けて心臓を刺し貫いた。  ゴボゴボと怪物の口から更に多量の血塊が溢れ出たが、男はなんら表情を変えぬまま、力を加えて刀身の根元までナイフを押し込み、手首を捻った。 「――ゴボッ!!」  一際盛大に血塊を吐き出し、怪物は大きく全身を引きつらせて息絶える。  男は頬に着いた返り血にも表情を変えず、血塗れのナイフをデザートケープで拭うと懐に収め、気を落ち着けるように大きく息を吐いた。  頭を巡らし街路に転がっているもう一つの亡骸を見遣る。  この化け物の餌食となった物乞いだった。  見開かれた眼は光を失い、失われた血によって肉は蒼白い。 「…………」  男は何事かつぶやいた。  だが降りしきる雨音に消され、無人の街路において、その言葉を聞きとった者はいない。  男は物乞いの亡骸に歩み寄り、しゃがみこんで顔に手を伸ばそうとし――  不意に、背後から烈迫の気合が雄叫びと化して近付いてきた。 「ほぉおおわちゃあああっ!!」
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