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「!?」
咄嗟に側方に身を投げ出すと、僅かに遅れて一瞬前まで頭があった場所を、猛烈な勢いで何かが飛び過ぎて行った。
片膝を付けたまま、すぐに跳躍できる姿勢を維持しつつ、男は不意の襲撃者を視界に納める。
襲撃者は行く手にあった住居の壁を、トンと軽ろやかに蹴ってこちらに向き直り、舞い落ちる木の葉のように、軽やかに着地した。
そして大喝。
「そこな悪党め! 人が気持ち良く惰眠を貪っている時に、悲鳴を聞きつけて来てみれば、哀れな物乞い達を殺し、物を盗ろうとするなぞ言語道断、このワンが成敗してくれよう!」
いきなり悪党と来た。
明らかな敵意を漲らせ、こちらを睥睨しているワンと名乗った老人の服装に、男は初めて顔色を変えた。
まるで中国の拳法家が着ているような、道着を纏った老人の姿に、思わず男は目を眇めたのだ。
だが先に誤解を解くことを思い至ったのか、男は複雑な面持ちをしながら、低い声で一言一言をはっきり発音するように口を開いた。
「人違いだ。こいつを殺したのは――」
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